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幕末、将軍達の「ジイ」
戸川安清のこと

 早島の歴史を語るとき、どうしても触れたい衝動に駆られる人がいます。早島の「戸川家記念館」をド派手に飾る、戸川安清(やすずみ)のことです。早島戸川家の分家で、中島(中庄)知行所400石の5代目当主、戸川安清が長崎奉行に出世して、10万石の格式といわれるド派手な行列を整えて、長崎に向かう行列が、事細かに描写され、戸川家記念館の中心部を飾っているのです。まるで「早島戸川家のトップはこの人・・・・」といわんばかりです。でも、実際は「中庄」の少身旗本出身??
 というわけで少し調べてみることにしました。

長崎奉行から勘定奉行へ
 この人、生まれは天明7年(1787)。全国で飢饉が相次いだころですね。おや、フランス革命の2年前でもありますね。あ、これは関係ないか??18歳で目付けに叙任されていますから、小身旗本としては早くから才能を見出されていたようです。でも、それから30年間は泣かず飛ばず???(失礼)。
 天保7年(1836)突然長崎奉行の大役が回ってきます。このときの行列が早島戸川家記念館に飾られているのです。時に安清49歳。もう隠居してもよい年齢ではありました。でも、当時は世情騒然の時代でした。翌年には大塩平八郎の乱がおこり、将軍が家慶(いえよし)に交代。しかし前将軍の家斉(いえなり)が大御所として間部詮勝(まなべあきかつ)とともに実権を振るいます。しかし、このとき長崎という離れた土地で役目をしていた戸川安清、これが幸いしたのでしょうね。あ、長崎奉行という美味しい役目で将来に備えて蓄財に励んでいたかどうかは知りませんけど・・・・。
真の大活躍は晩年に徳川将軍の「ジイ」として
 家斉が死去して水野忠邦の天保の改革(1841)が始まると、戸川安清はたちまち勘定奉行として江戸へ呼び戻されます。そして3年後の弘化2年(1845)西の丸留守居役に任命されるのです。58歳でした。年表を繰って見ますと、実に戸川安清の真の活躍はここから始まっているのです・・・。
 西の丸は、次期将軍家が入るところです。その留守居とは、次期将軍を教育する役目に他なりません。「端正和易にして、人に接するに及べば、情言を尽くして飾るところなし」「文事を好みて、最も筆翰(筆や手紙)に工(たく)み。古隷体の若きは「世にまれ」と激賞された」と表現されるほど。人となりは誰が見ても「次期将軍」の教育係としてうってつけだったのでしょう。そのうえ58歳と高齢で、もう権力欲を出すこともなさそうですし???戸川安清、次期将軍の「ジイ」として抜擢されたのです。そしてそれから15年にわたり、13代家定、14代家茂の二人を教育する立場となったのです。
 戸川安清、表舞台ではその後も旗本最高位の留守居となり、和宮降嫁の警護役を務めたり、明治の寸前(隠居は1866=80歳)まで活躍します。
 で、ここで触れたいのは、彼は自分の出世ばかりでなく、同族の帯江戸川17代安栄(甲府勤番支配、留守居を歴任)、18代安愛(大目付として慶喜側近として活躍)の幕府中枢での活躍にも、深く関わっている節があるのです。幕末の帯江戸川氏の活躍、そして早島戸川氏の最期の当主戸川安宅(残花)の明治大正での文化人としての大活躍に大きな影響を与えた「戸川安清」ここにも大拍手を送りたいと思います。

中庄の中島、戸川安清の采地を訪ねて
 えっ、倉敷市の「中島」って、中庄でなくってもっと西では?と思っていたのですが 東の中庄にも「中島」があり、そここそ戸川安清の知行地だったところらしいのです。
 で、訪ねてみました。どうやら旧二号線沿いの「百舌鳥(もず)が鼻」という珍しい地名のあたりがそうらしいのです。倉敷市街地から旧2号線を東進、JR山陽本線を超える「百舌鳥が鼻越線橋」にかかったところで左にそれます。坂を下ったところのすぐ右になんと「中島公民館」があるではありませんか。あっ、ここなのですね。中をみますと、戸川安清の筆になるという「田作明神の額」も見えていました。
 そこから北東にしばし、JR山陽線の番田2踏切を北に渡り、線路に沿ってすぐ左に進みます。しばらく入ったところ、人家の裏手にあるのが「田作明神の石碑」です。これも戸川安清の筆だそうです。おや、こうしてみますと、百舌鳥が鼻越線橋って、小さな丘を利用して作られているのですね。いろんな発見があります。同時に「中庄の中島」は明治の頃、JR山陽線で分断されてしまった様子も伺えます。

 そして、不洗観音寺の縁起額
 戸川安清の筆というと、なんと言っても倉敷市中帯江にある不洗観音寺の縁起額です。どうやら長崎奉行に行く途中に、同寺の求めに応じて書いたものらしく、本堂の正面にでっかくかかっています。
 これまで「長崎奉行」として取り上げられることの多かった戸川安清さん、なかなかユニークな人らしく、もっともっと研究の価値がありそうですね。  (2014,3)

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