『杉原姓とラーメン』二周年記念論文 ラーメン!この多様なるもの |
1、はじめに |
私が「杉原姓とラーメン」というちょっと風変わりなホームページ(以下HP)を始めたのはちょうど2年前、1996年12月のことでした。正直に言いますと、「杉原姓」をテーマにしたHPを始めたかったのですが、それだけではちょっと広がりがないと思って、「ラーメン」を色づけのつもりでくっつけたのです。
それから2年、この「ラーメン」のページは「花も嵐もラーメン物語」として独立し、今年の夏には「岡山ラーメン学会」なるラーメンサポーター団体まで、日本で初めて結成されました。私としても後へ引けなくなってしまったようです。
ラーメンとはなんと恐ろしいものです。
で、この2年間私がラーメンHPを運営して考えてきたことを、この文章でまとめてみたいと思います。尚、「論文」という表題がつけてありますが、内容は私の感想をつづったもので、「論文」の体をなしていないかもしれません。また、「多様なる」のタイトル通り、この内容は「岡山ラーメン学会」の討論のまとめなどといったものではなく、その1構成員である私の個人的な感想です。最後まで読んでいただければ幸いです。
2、ラーメンの好みは人によって大きく違う |
「どこのラーメンが美味しいですか。」みんなからよく聞かれることです。でも、これが1番困る質問でもあります。私個人の好みは答えられないことはないのですが、でもそのたびに「うーん。」ということになるのです。私個人の好きなラーメンも歳とともに変わってきましたし、季節や体調によっても食べたいラーメンが変わってくるのです。
最近は「うーん。」のあとで、「あなたはどこが好き?」と逆に聞き返すことも増えてきました。ところが相手も「こればっかりは人によって好みが違うからなー。」なのです。それで、お互いに2〜3軒の店を上げ、それぞれの店についての議論が始まる・・・・。そして議論の結果、最後には相手の性格までわかったような気持ちになって、味の好みは違っても、なんとなく親しくなってしまった2人に気づくのです。
ほかの食べ物ではこうはいきません「あそこの寿司が美味しい。」「いいや、ここのほうが美味しい。」・・・。議論は途中で途切れてしまうか、1方がしゃべりまくって、他が聞き役にまわるということになるのです。
普通、味の評価には詳しいグルメといわれる人がよくいて、そういう人たちの発言にはみんな黙って聞いて、「なるほど、○○の味はそういうふうにみるのか。」などと感心するものです。
ところがなぜかラーメンだけは違うのです。多くの人が自分のラーメンに関する感覚を持っていて、いかに高名な評論家?の意見であろうとも、自分の尺度で判断して、「いや、それは違う。ラーメンとはこうなんだ。」といった発言が飛び交うのです。
おそらく日常の食べ物の中で、ラーメンくらい個性が発揮されるといいますか、様々な意見がある食べ物はないのではないでしょうか。
『食文化のなかでいちばん民主主義的なもの、それがラーメン』。ちょっと強烈なこじつけかもしれませんが。
3、味の情念。ラーメンは人の歴史だ。 |
なぜかラーメンには「人の情念」といいますか、奥深さといいますか、何か違うものを感じるのです。私などラーメンについてHPに書いたり、あちこちでしゃべったりしているわけですが、そうするとどうしても読み手や聞き手の反応を気にしてしまってか、自分の感覚がわからなくなってしまうのです。でも実はみんなが「まずい」と言っているラーメンが懐かしかったり、心の奥では美味しいと思っている自分にもまた気づくのです。
自分が育ってくる過程で食べたラーメン、子供の頃、そして思春期のころ、青年時代・・・それぞれに私達の味覚に影響を与え、形作られてきたラーメンに対する思い・・・。ラーメンにはそういった個人々々の「人の歴史」があり、そこに「味の情念」のようなものを感じるのは私だけでしょうか。
最近岡山ラーメン学会は「笠岡ラーメン」を発掘?しました。それについて私の職場のある先輩が、「おっ、それはわしが子供の頃から食べてきたやつだ。」とまさに少年のような目をして、その特徴や味や歴史にいたるまでいきいきと語り始めたのです。このシーンは私の目に鮮明にやきついてしまいました。きっとこれからさき、私がラーメンを考える度に思いだすことでしょう。
一方、ラーメンを作る人たちにも様々なドラマがあります。戦後の焼けのが原から間もなく、ラーメン屋台を引き始めた人たち。最近に脱サラでラーメン屋を始めた人たち、子供の頃から食べ続けたラーメンを自分でも作ってみたいとラーメン屋さんになった人たち。仕事で他地方に出かけて、そこで取り付かれたラーメンの味を、脱サラして岡山に持ち込んだ人たち。最近では岡山の超有名和風料理店の板長さんから、ラーメン屋に転じた人まであらわれました。
どれもこれも、人生ドラマがあふれています。
「人の歴史、人生のドラマ、それがラーメン」なのです。
4、多様性が生む、味の匠たち |
ちょっと話を変えて、近所のスーパーをのぞいています。パックに入った生のラーメン、袋麺、カップ麺、そしておなじみのインスタントラーメン・・。それぞれが10種類、いやそれ以上にもあふれています。世の食べ物でこんなに多種多様に作られ売られているものがあるでしょうか。それはもう「バラエティーに富む」なんて言葉で言い表せるほどなまやさしいものではありません。
それもこれもラーメンほど個人の味へのこだわりがあり、人生を反映した好みの多様性がある食べ物はないからです。市販の「ラーメン」はそういった「ラーメン文化」を反映しているのです。
それだけに、世のラーメン屋さんたちは、大変な情熱を傾けてラーメンを作り「美味しいラーメンを」と打ち込んでいます。「20時間かけてスープをとる。」とかいうのは普通で、「好みの麺を自分で作って、○日間ねかせる」とか、焼豚にこだわって、独自の味付けとか、様々な工夫があふれています。1店1店、文化の塊のように思えます。
1人々々が味へのこだわりを持つ「ラーメン文化」においては、ちょっとした食べ物、ちょっとした美味しさでは、とてもお客さんを満足させることが出来ないからではないでしょうか。ある友人は「世の食べ物の中で、家庭で作れないのはラーメンだけだ。」といいます。そのとおりかもしれません。
世に「伝統工芸士」とか「重要無形文化財」といった人たちが存在しますが、ラーメン屋さんの味と技術は十分にそれに該当するものがあると思います。岡山だけでも「先代」とか言われ、「名店」とか言われるそれぞれの味を作り上げてきた『味の匠』たちが何人もおられるのではないでしょうか。
そう、「味の匠たち、それがラーメン屋さん」なのです。
5、岡山のラーメンは、多様でレベルも高い |
「岡山のラーメンって、どんなラーメンですか?。」今困っている質問はこれです。一言ではとても言い表せないのです。それでいて、一つ一つのラーメン店、みな「岡山のラーメン」らしいのです。
「うーん。とんこつ醤油主流で、麺は細いストレートが多く・・・。」どうもあいまいにしか答えられない岡山のラーメン。それでいて岡山市のラーメン店数は、人口3,000人に1店と西日本ではトップ。福岡市と和歌山市の5,300人に1店などをはるかに引き離しているのです。札幌市の3,100人に 1店をもしのいでいます。岡山人が「ラーメン好き」なのはたしかなようです。
「岡山県で成功した商売は、全国どこでも成功する。」ともいわれます。岡山県ではなかなか新しい商売は成功しないそうで、そこで広まったものはあのカラオケボックスのように、全国にもあっという間に広がるんだそうです。
優しい瀬戸の海の魚や、美味しい備前米がはぐくんだその舌は、なかなかにあなどれません。あの「天下一品」が倉敷市児島でようやく一店を維持しているのみというのもわかるような気がします。
そうした岡山人の舌を満足させる為にか、岡山ではあらゆる種類の多様なラーメンがあります。コッテリから超あっさりまで。醤油、味噌、トンコツ・・・。
私のところへ岡山県出身で、東京、大阪などへ出ている大学生からよくメールが舞い込みます。たいてい「こちらで有名なラーメン店を食べ歩いたが、少年時代に食べた岡山のラーメンほど美味しいものにはおめにかからない。最近は帰郷したら、必ずラーメン屋に直行してしまう・・。」などというものです。それが「やまと」であったり「百万両」であったり「第二又一」「天神」「富士屋」などであったりするのです。
味の慣れもあるのでしょうが、やはり「岡山のラーメンは多様で、全国的にもかなりのレベルにある。」といえるのではないでしょうか。
6、終わりに |
「岡山ラーメン学会」が山陽放送TVの「Voice21、ザ・ラーメン」で放送された、12月8日(火)以降、私のまわりに急にラーメン評論家が増えました。
私の顔を見ると、ニヤッとしてラーメン談義をはじめるのです。いかにも嬉しそうに。えっ、この人が!!、というような人が意外にラーメンに詳しかったり、日頃無口な人がラーメンに関しては、私などが足元にも及ばない深い知識を持っておられたりするのです。
「1億総ラーメン評論家」という言葉が、決してオーバーでなく、私の頭をかすめて過ぎます。
・ ラーメンとは、美味しいものだ。
・ ラーメンは、人の歴史、人生のドラマだ。
・ ラーメンは多様で、民主主義的な食べ物だ。
・ 味の匠たち、それがラーメン
・ 岡山のラーメンは多様でレベルが高い
・ ラーメンは、奥深いものだ
そして、結論
『ラーメンは文化だ』
うーん。どうもうまく結論が導きだせない?。まだまだ苦しみそうな私です。洒落でラーメンページを始めた私の、2年を経てのレベルはこの程度のものです。どうか皆様御賢察下さい。
今後とも、『杉原姓とラーメン』よろしくお願いいたします。